決算においては貸借対照表と損益計算書を作成することがゴールとなる。 ただし、直接これらのアウトプットを作成するのではなく、まず初めに中間出力として試算表(=Trial Balance)(=T/B)を作成する。 具体的な決算業務の手順は以下の通りとなる。
工事中
期末まで原因不明の現金過不足が残っている場合は、勘定科目「雑損」または「雑益」に振り替える。 現金が不足していた場合は雑損が借方となり、現金が過剰な場合は雑益が貸方となる。
ただし、決算作業の時点で発覚した現金残高と帳簿の不一致については、現金過不足の勘定科目を通さずに、雑損または雑益と現金との仕訳を作成する。
当座借越契約により、決算作業時に当座預金の残高がマイナスであった場合、帳簿上の当座預金残高を、負債の勘定科目「当座借越」または「借入金」に振り替える。
事務用消耗品は購入時点では費用として処理しておくが、決算作業時には未使用分の消耗品、とくに高額で換金性の高いものは勘定科目「貯蔵品」へ振り替える必要がある。 このとき作成する仕訳について、借方の勘定科目は貯蔵品、貸方はその消耗品の購入時の費用とする。
資産へ振り替える必要が高い消耗品の例としては、次のものが挙げられる。
一定期間有効なサービスについて、その期間の開始/終了が期初、期末とずれる場合、収益や費用の一部を負債や資産に振り替えておく必要がある。 振替仕訳の内容は、サービス代金の支払いタイミング(前払い or 後払い)と、立場(提供者 or 利用者)によって、下表のように変化する。
提供者 | 利用者 | |||
---|---|---|---|---|
借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 | |
前払い | 収益 | 負債「前受収益」 | 資産「前払費用」 | 費用 |
後払い | 資産「未収収益」 | 収益 | 費用 | 負債「未払費用」 |
一定期間有効なサービスの例として、以下のようなサービスが挙げられる。
以下に仕訳例を示す。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
04/01 | 去年8月1日に更新した1200円の火災保険の前払計上 (4~7月分の費用を、「4ヶ月分のサービスを受ける権利=資産」へ振り返る) | 前払費用 | 400 | 支払保険料 | 400 |
04/01 | 去年10月1日に運用中賃貸へ入居した人から受け取った前払い2年分家賃2400000円の前受け計上 (残り18ヶ月分の収益を、「18ヶ月分のサービスを提供する義務=負債」へ振り返る) | 受取家賃 | 1800000 | 前受収益 | 1800000 |
04/01 | 4月20日に支払うべき、3月20日~4月20日までのオフィスの家賃31000円の未払計上 (03/20~03/31の分の費用を未収費用とする) | 支払家賃 | 11000 | 未払費用 | 11000 |
現物資産の移動のタイミングではなく、権利や義務が発生したときに仕訳を作る考え方が「発生主義」である。 簿記は発生主義を採用している。
対照的に、現物資産の移動のタイミングでのみ仕訳を作る考え方を「現金主義」と呼ぶ。
減価償却とは、時間とともに価値が減少する固定資産について、価値の減少を費用として処理することである。 費用処理する際の、費用の勘定科目には「減価償却費」を用いる。
費用処理の記帳方法には以下の2種類がある。 一般的には間接法が使われる。 (ちなみに間接法は3級の範囲外)
減価償却費の計算方法にも幾つかの種類があるが、3級では定額法のみ扱う。 定額法では、固定資産の耐用年数と残存価額(=耐用年数後の簿価)をもとに、毎年定額を費用処理する。 例えば10万円のノートPCについて、耐用年数4年、残存価額2万円とした場合、耐用年数が過ぎるまでは毎年の決算で、2万円を費用処理する。
また、期の途中で購入/売却した固定資産については、減価償却費の計算は月割りで行う。
固定資産のうち、土地だけは減価償却を行わない。
間接法の場合、固定資産の売却時には減価償却累計額を減少させる。 売却価額が減価償却後の価額を上回る場合、売却益は利益の勘定科目「固定資産売却益」で表す。
以下に間接法による減価償却の仕訳例を示す。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
2024/01/01 | ノートPCを購入(耐用年数4年/残存価額2000円) | 備品 | 50000 | 現金 | 50000 |
2024/04/01 | ノートPCの減価償却(1~3月分) | 減価償却費 | 3000 | 備品減価償却累計額 | 3000 |
2025/04/01 | ノートPCの減価償却(1年分) | 減価償却費 | 12000 | 備品減価償却累計額 | 12000 |
2026/04/01 | ノートPCの減価償却(1年分) | 減価償却費 | 12000 | 備品減価償却累計額 | 12000 |
2027/04/01 | ノートPCの減価償却(1年分) | 減価償却費 | 12000 | 備品減価償却累計額 | 12000 |
2028/04/01 | ノートPCの減価償却(4~12月分) | 減価償却費 | 9000 | 備品減価償却累計額 | 9000 |
以下に固定資産の購入〜売却までの仕訳の例を示す。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
2024/01/01 | ノートPCを購入(耐用年数4年/残存価額2000円) | 備品 | 50000 | 現金 | 50000 |
2024/04/01 | ノートPCの減価償却(1~3月分) | 減価償却費 | 3000 | 備品減価償却累計額 | 3000 |
2024/07/31 | ノートPCを5万円で売却(4~7月分の減価償却費含む) | 備品減価償却累計額 | 3000 | 備品 | 50000 |
減価償却費 | 3000 | 固定資産売却益 | 6000 | ||
現金 | 50000 |
保有する債権の全てを回収できるとは限らないため、期末時点で債権のうち一定の割合を費用として処理する。 このとき、借方は費用「貸倒引当金繰入」、貸方はマイナス資産「貸倒引当金」として仕訳を起こす。
費用処理する額の決定には、差額補充法を用いる。 差額補充法とは、現在の債権額の一定%の額と等しくなるように、貸倒引当金の額を調整する方法である。 この時の%値を、貸倒見積率と呼ぶ。 例えば債権額が10000円、貸倒見積率が3%、前決算で設定された貸倒引当金が500円の場合、貸倒引当金を200円減らす処理を行う。
もし貸倒処理した後に債権が回収できた場合についても、以下のように仕訳の方法が異なる。
債権発生 | 貸倒処理 | 債権回収 | 仕訳の方法 |
---|---|---|---|
期中 | 期中 | - | 勘定科目「貸倒損失」として費用処理 |
期中 | 期中 | 期中 | 貸倒損失を打ち消す |
期首以前 | 期中 | - | 貸倒引当金から損失を充当 |
期首以前 | 期中 | 期中 | 利益「償却債権取立益」として回収した額を利益処理 |
以下に差額補充法における貸倒引当金の仕訳例を示す。 ただし2023年決算時点では貸倒引当金は0円に設定されていたものとする。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
2024/04/01 | 貸倒引当金を10000円に設定する | 貸倒引当金繰入 | 10000 | 貸倒引当金 | 10000 |
2025/04/01 | 貸倒引当金を20000円に設定する | 貸倒引当金繰入 | 10000 | 貸倒引当金 | 10000 |
2026/04/01 | 貸倒引当金を5000円に設定する | 貸倒引当金 | 15000 | 貸倒引当金繰入 | 15000 |
2026/05/01 | 3年前の債権Xの貸倒の発覚 | 貸倒引当金 | 100 | 売掛金 | 100 |
2026/06/01 | 先月の債権Yの貸倒の発覚 | 貸倒損失 | 100 | 売掛金 | 100 |
2026/07/01 | 貸倒処理した債権Xの一部回収 | 現金 | 50 | 償却債権取立益 | 50 |
2026/08/01 | 貸倒処理した債権Yの全額回収 | 現金 | 100 | 貸倒損失 | 100 |
売上原価(=売った商品の仕入れ値)は、仕入れ額から保有中の在庫額分だけを差し引くことで求めることができる。
決算では、仕入れ額が売上原価と等しくなるように決算整理仕訳を作る必要がある。 具体的には、以下のように2つの仕訳によって仕入れ額の一部を勘定科目「繰越商品」へ振り替える。
以下に売上原価算定のための決算整理仕訳の例を示す。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|---|
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
2024/04/01 | 前期決算(2022年度決算)の繰越商品を一旦リセット | 仕入 | 500 | 繰越商品 | 500 |
2024/04/01 | 現在の在庫額を仕入から繰越商品へ振り替える | 繰越商品 | 300 | 仕入 | 300 |
決算作業のアウトプットが作成できた後の後始末として、以下の再振替仕訳を作成する必要がある。